役所の町 大河原
地理と地域スーパータウン大河原
役所の町 大河原
制作:千本桜 歌麿
設置日:2007.2.7
最終更新日:2020.12.23
E-mail:tiritotiiki@gmail.com
写真
役所の町大河原を象徴する宮城県大河原合同庁舎 2017年2月撮影

はじめに
地図
 宮城県南部に位置する大河原町は、仙南地域を管轄する国や県の出先機関が数多く立地し、「役所町」または「役所の町」と称されてきました。しかも、仙南地域には2つの市(白石市角田市)があるのに、それらを抑えて中心都市の役割を担っているのですから、全国的にも珍しい風変わりな町です。しかし、このような実態はあまり知られておらず、仙南地域を管轄する裁判所や税務署は白石市にあると思っている人が多いのです。
 では、なぜ白石ではなく大河原に国や県の出先機関が置かれるようになったのか。日本が近代的な地方行政の確立に向かって動き出した明治初期の警察署設置を手がかりに、役所の町大河原について考えてみましょう。
 なお、当ページの目的は、大河原町に所在する国や県の機関に着目し、仙南地域における大河原町の中心性とその役割を考えることにあります。したがって、役所以外の広域都市施設(仙南芸術文化センター ・みやぎ県南中核病院・大河原駅など)についても写真を添えて記述します。
目 次
1・警察出張所の設置に関する「広報しろいし」の記事
2・警察出張所の設置に関する大河原町史の記述
3・明治初期の仙南4郡と町場の分布
4・裁判所をめぐる熱き戦い 大河原VS白石
5・裁判所をめぐる熱き戦い 加治木VS隼人
6・現代の仙南地域
7・仙南地域の人口分布図
8・法務省 仙台地方検察庁大河原支部、大河原区検察庁
9・法務省 仙台法務局大河原支局
10・法務省 大河原公証役場
11・財務省 仙台国税局大河原税務署
12・厚生労働省 宮城労働局大河原公共職業安定所(ハローワーク)
13・厚生労働省 宮城労働局大河原労働基準監督署
14・農林水産省 東北農政局地域第三課 2011年8月31日廃止
15・農林水産省 東北農政局大河原統計・情報センター 2011年8月31日廃止
16・防衛省 自衛隊宮城地方協力本部大河原地域事務所
17・仙台地方裁判所大河原支部、仙台家庭裁判所大河原支部、大河原簡易裁判所
18・日本年金機構 大河原年金事務所
19・宮城県 大河原合同庁舎(地方振興・県税・保健福祉・土木・教育事務所)
20・宮城県警察 大河原警察署
21・宮城県警察 仙南運転免許センター
22・仙南地域広域行政事務組合 消防本部、大河原消防署
23・仙南地域広域行政事務組合 仙南芸術文化センター (えずこホール)
24・みやぎ県南中核病院
25・仙南夜間初期急患センター
26・大河原町総合体育館(はねっこアリーナ)
27・大河原駅前再開発ビル(オーガ)
28・日本郵便 大河原郵便局
29・JR東日本 大河原駅
1・警察出張所の設置に関する「広報しろいし」の記事
地図
 明治初期は新しい文化や時代が始まろうとした時期で、地方行政がめまぐるしく変化しました。警察署を例にとり、変化の激しさを見てみましょう。宮城県は1873年に現在の警察署の基となる巡邏屯所を仙台・古川・石巻・白石に設置。2年後の1875年には、巡邏屯所を警察出張所に改め、白石を大河原に変更し、仙台・古川・石巻・大河原に警察出張所を配置しました。
 その3年後の1878年には、警察出張所が警察署に改められ、仙台・古川・石巻・大河原の4警察署が発足。そして8年後の1886年には1郡1署制が実施され、柴田郡の大河原署のほか、刈田郡に白石署、伊具郡に角田署、亘理郡に亘理署が置かれて現在に至っています。
 以上の流れの中で、大河原の転機となったのは1875年の警察出張所設置でしょう。警察署の基となった巡邏屯所は白石に置かれていたのに、あえて格下の町場であった大河原に警察出張所を設置したのはなぜなのか。1976年発行の広報しろいしNO.207 に、明治初期の仙南における警察署設置に関する記事が掲載されていますので、その一部を書き出します。

 「ここで当地方に近代的警察制度が誕生するまでの経緯と治安を一瞥して見ることにしよう。(中略)宮城県時代の明治五年、捕亡・見廻役(後に番人と改称)が置かれたが六年捕亡は廃され始めて今の警察制度の基となる巡遷屯所が設置された。この時仙台の中央屯所の外に県内に三屯所(石巻・白石・古川)が設けられた。白石屯所は刈田病院前の宮城県白石出張所内に設けられ、愚鵯の定員は八名だった。明治八年になり羅卒が巡査と改称される時に、県庁内に警察係が置かれて、県内に仙台・石巻・古川の外一出張所を設ける際、故あって白石から大河原に出張所が変更されて(大河原はこの時以来役所町となる)白石には同出張所白石屯所が置かれる事になった」 以上、原文のまま。

 「広報しろいし」は、故あって白石から大河原に出張所が変更されたと記述していますが、その文言には、警察出張所を誘致できずに、大河原に遅れをとった白石の後悔が感じられます。いったい、どのようないきさつがあったのだろう。その答えとなるものが大河原町史に書いてありますので以下に掲載します。
2・警察出張所の設置に関する大河原町史の記述
地図
 大河原町史「通史編」は、警察出張所の設置候補地が白石から大河原へ変更になったいきさつを、次ぎのように記述しています。

 「明治八年になってこの巡邏屯所が改められ、名称も警察出張所と称せられ、県内四か所に配置されることになった。最初の議案では角田が候補地であったが五月ごろには白石に変更され、さらに十月ごろ大河原に再度変更された。理由は『建築等の都合により』となっているが白石では警察署などを置いては針小ほどの犯罪も摘発されてはたまらないし、それに建築寄付までとられるとあってはと二の足を踏んだのだという」 以上、原文のまま。

 白石は警察出張所の設置費用を地元負担とする県の方針に対応できなかったようです。それに対し、大河原は素早く敷地・建築費の寄付を申し出て、尾形安平・佐藤源三郎・大泉源兵衛・高山荘治郎など49名が計308円を拠出し、寄付しています。このように熱心な誘致活動もあり、仙南を管轄する警察出張所は大河原へ設置されることになったのです。当時、県内4か所の警察出張所は、仙台を第一出張所、古川を第二出張所、石巻を第三出張所、大河原を第四出張所としていましたが、1878年3月に警察出張所は警察署に改められ、大河原の警察出張所は大河原警察署となりました。同年8月には大河原区裁判所も開庁し、大河原は役所町としての性格を強めていきます。

3・明治初期の仙南4郡と町場の分布
地図
 大河原警察署の沿革によると、創設当時の大河原署は仙南5郡(刈田郡柴田郡伊具郡亘理郡名取郡)を管轄していたと書いてあります。しかし、宮城県史や大河原町史によると、管轄区域は名取郡を除いた仙南4郡(刈田・柴田・伊具・亘理)となっています。そこで、町史にしたがい管轄区域を仙南4郡とし、1875年発行の地域統計書「共武政表」を基に、人口1千人以上の町場分布図を作ってみました。
 なお、地名に付した接尾辞(驛・本郷・港・村)は原文のままです。当時の文献は接尾辞がまちまちで、大河原の町場を指す場合も、驛・宿・町が混用され、大河原驛・大河原宿・大河原町のように表記が揺れています。

 警察署や裁判所が大河原に設置された要因の1つに、熱心な誘致運動がありました。しかし、もっと大きな要因は、仙南の中央に位置する地理的優位性にあったと考えるのが自然でしょう。
 役所をどの町に設置するかは、人口分布が大きな決め手になります。おおまかに郡単位の人口を見てみましょう。現在(2020年11月)は柴田郡が8万1千人、白石市および刈田郡が4万5千人、亘理郡が4万5千人、角田市および伊具郡が4万人で、柴田郡がトップです。しかし、明治初期は今と全く異なっていました。1875年の郡人口は、伊具郡が3万1千人、刈田郡が2万3千人、柴田郡が2万1千人、亘理郡が1万8千人で、伊具郡がトップでした。

 次に、明治初期の町場の規模を見てみましょう。刈田郡では人口3,313の白石が飛び抜けて大きく、ほかに有力な町場はありません。白石に次ぐのは湯原・関・越河・宮などですが、いずれも人口5百人程度の零細な町場でした。刈田郡は白石一極集中の郡と言えるでしょう。
 伊具郡でも人口3,105の角田が飛び抜けていて、その下に続く丸森・金山・金津などは人口1千人に満たない町場でした。伊具郡も角田一極集中に近い状態の郡と言えるでしょう。
 亘理郡では人口1,712の亘理と人口1,555の荒浜が大きな町場でしたが、それに続く坂元・山下などは人口1千人に満たない小規模な町場でした。

 一方、柴田郡は人口1,447の大河原を筆頭に、村田・船岡・金ヶ瀬にも人口1千人以上の町場が形成され、その下に槻木・船迫・川崎などの小規模な町場が続く多極分散型でした。個々の町場は小規模ですが、金ヶ瀬・大河原・船岡の3町が3キロメートル間隔で位置する柴田郡南部の奥州街道沿いは、仙南4郡の拠点となる要素が潜在していたと考えられます。

 こうして町場の分布を眺めていると、白石・角田・大河原による三つどもえの都市間競争が勃発しそうな気配を感じます。役所の有無は町の格式と盛衰につながりますから、どの町も役所を欲しがります。それをもっとも意識していたのは、仙南4郡で最大の町であり、城下町の歴史と格式を持つ白石ではなかったかと思います。案の定、白石は1911年、大河原の裁判所を白石へ移転してほしいと国へ請願し、大河原へ戦いを挑んできました。

4・裁判所をめぐる熱き戦い 大河原VS白石
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 仙南4郡を管轄する警察署と裁判所が大河原に設置されたことは、最大の町であった白石にとって、驚きと無念のできごとであったに違いない。城下町の歴史を持つ白石から見れば、宿場町の大河原は格下の町である。役所は白石に置かれて当然という思いがあるだろう。そこで白石は、次ぎの案を練って裁判所の移転を国へ請願しました。

1・亘理郡を仙台区裁判所へ移管する。
2・管轄エリアを仙南3郡に変更する。
3・大河原区裁判所を白石へ移転する。
4・大河原区裁判所を白石区裁判所に改称する。
以上が請願の要点ですが、白石を中心に据えるために管轄エリアの変更を求めるなど、果敢に地政学を働かせています。この請願は、1911年2月17日の官報号外、第27回帝国議会衆議院議事速記録第12号「第十八、裁判所位置名称及管轄区域変更に関する法律案」に記録されているので、その一部を以下に引用します。

 1911年2月の帝国議会で白石町出身の衆議院齋藤二郎議員は、「大河原町と白石町とを比較対照するに之を地図の上より見るも又実際に調査したる結果を見るも白石町に区裁判所を設置すとすれば刈田、伊具、柴田の三郡を管轄するに好位置たるを失わず、又之を歴史上より説明すれば白石町は実に維新当時迄白石城の在りし所にして昔時より交通の便開け取引の盛なる所なり而して其の後仙南に治安裁判所設置の議あるや白石町民は之に充てるの敷地及庁舎を上納しその規模は亳も現大河原区裁判所に譲らざりき、故に町民は必然治安裁判所を設けらるならんと期待せしに大河原町民は己が町村に及す利害の関係大なるを恐れ大挙して運動に着手し其の結果遂に明治二十三年法律第六十二号を以て設置せらる、に至れり茲に於てか白石町民は大に驚き同年九月時の山田司法大臣に陳情書を提出したるの結果白石町民総代等司法省に出頭を命ぜられ縷々陳情したる所司法当局者も大に之を諒とし総代等を慰撫して帰町せしめたり其の後建物及敷地は郡役所に賃貸すること、なり以て今日に及べり要するに白石町は如上の歴史を有し且地の理宜しく実に仙南に於ける第一の枢要地たるを失わざるを以て現大河原区裁判所を白石町に移転し刈田、伊具、柴田の三郡を管轄せしめ海岸線に属する亘理郡を仙台区裁判所の管轄に属せしむるは最も適当な措置なりと認むる故に本員は如何なる迫害を受くるも屈せず社会公衆の利益の為に本案を提出したる次第なれば諸君宜しく賛成あらんことを切望す」と述べて、大河原区裁判所を白石町へ移転し、白石区裁判所と改称するように陳情しています。

 この陳述に対し、登米郡出身の村松亀一郎議員は次ぎのように反対意見を述べています。要約すると
「現状を変更するには、変更する必然性がなければならないと私は考えます。大河原町に置くべからず、どうしてもこれを白石町に移さなければならないという必然性がなければならないのである。ところが本問題はなんら目立った理由がないのであります。ただ目立つのは白石町が大河原町に比して繁華であるから、繁華な方に置いた方が多少便利であろうと言うくらいのものであって、それ以外に一つの理由もないのである。(中略)区裁判所を大河原町に置いて以来、三十有余年になるのであります。三十有余年その恩恵を受けてきたものからこれを奪って、そうして或る一町にその恩恵を与えよう、そういう浅薄なる理由では私はいけないと考えるのであります、(中略)又この裁判所があるために間接直接に利益を享けているものは大河原町においては少なくないので、これを移さなければ害があるとか、これを移せば利益があるとか、何らかの理由があってならともかくも、何らの理由なくしてこの便利を奪い去るということは、はなはだ残酷なことではあるまいかと考えます。(以下省略)」 と述べて、白石町への移転に反対しています。

 この村松亀一郎議員の発言に齋藤二郎議員は次のように反論します。要約すると
「委員会でも村松君及び藤澤君、澤君がこれに反対されたのですが、私は自分が出した案としてはこういう御方の反対されるのを名誉と致します。けれどもその言方、理屈が付かぬ。今まで白石に置くべきものを大河原に持っていったから、今これを奪うのは残酷だとか言いますが、むしろこれは反対であって、我々は奪われたものを取り戻す。露骨に言えば、貸した金を利息は要らないから元を返せと言うのであって難しいことはない。利息はまけてやるのだから、大河原町民は白石町民に向かって感謝しなければならない。仙南において大河原町は中央だと主張するが、中央と言うことは土地の上からであって、都はどこかと言えば白石が都である。会社の数も13くらいあって、大河原町に何がありますか。もし場所が中央だと言うことが適当な理由になるならば、宮城県の本吉郡をご覧なさい。気仙沼と言う昔の南部領に区裁判所を置いてある。場所が中央であったから永い間裁判所を置いてあったのを今から取るのは残酷だと言うのは、素人だましのことだ。(以下省略)」と述べています。ただし、気仙沼を南部領(盛岡藩)というのは齋藤二郎議員の誤認識で、正しくは仙台藩です。

 本吉郡は南北に細長く、主要な町は南方の志津川と北方の気仙沼で、中央部には大きな町がありません。そのようなわけで、裁判所は郡の中央ではなく、北方に偏った気仙沼に置かれていました。それなら仙南の裁判所も地理的中央の大河原ではなく、少し西に偏った白石に移転させても良いのではないかと齋藤二郎議員は考えたのだろうと推察します。

 この裁判所移転に関する一連の会議の中で、司法省民刑局長法學博士の平沼騏一郎(後の第35代内閣総理大臣)は、「政府調査の結果を述べれば、大河原の方を便利なりとする町村は其の数二十二、人口八万三千二百八十五(亘理郡を除き)、白石町の方を便利なりとする町村は其の数十二、人口四万四千百五十なり、而して司法省に対して該裁判所移転反対の陳情書を提出したる町村多数にして合計二十八箇町村の多きに達せり」として、白石町への移転に否定的な答弁をしています。

5・裁判所をめぐる熱き戦い 加治木VS隼人
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 昭和時代になって1950年の話ですが、鹿児島県姶良郡でも裁判所の立地をめぐって、加治木町と隼人町が都市間競争の激しい火花を散らしていました。1950年の国勢調査人口は、加治木町が20,277人で隼人町が19,705人。互いに譲れぬ互角の関係です。

 加治木町は古い城下町。姶良郡では一番に大きな市街地を形成し、町並みも繁華でした。しかし、郡の中央より少し西に偏っています。一方、隼人町は郡の中央にあって、国鉄日豊本線と肥薩線の分岐点です。しかし、どこがヘソだか分からない分散型の町並みは、加治木町に比べて貧弱です。この状況のなかで、裁判所は加治木町に置かれていました。
 ところが1945年、裁判所は戦災で焼失し、再建することになりました。この再建について隼人町は、地理・交通・産業の中心地である隼人町に移転造営してほしいと国会に陳情。これには加治木町が猛反対。裁判所を存続させたい加治木町と移転誘致したい隼人町がバトルを展開します。1950年7月の第008回国会法務委員会第8号に、「加治木町に鹿児島地方裁判所支部等存続に関する請願」が記録されていますので、以下に掲載します。

 鹿児島県姶良郡にある鹿児島地方裁判所加治木支部等を、同郡隼人町に移転する運動があるが、次の理由により、移転に反対する。(一)移転の理由は、きわめて薄弱であり、また移転することは郡内町村の平和を乱し平地に波瀾を起させる、(二)一箇町村にある国家機関を根本的理由なしに、あちこちに移すことは政府の信を失うおそれがある、(三)同町は交通上、隼人町に遜色はない、(四)同町は文化的諸官庁金融機関の関係上、隼人町よりはるかに上位にある、(五)同町は、郡の政治的、通信、電話連絡上の中心地であり隼人町の予定地と役場とは市外電話区域であり、鹿児島方面への電話は一切同町中継のため、不便である。以上五つの理由をもつて、隼人町に移転することを反対する請願でございます。 以上、原文のまま。

 仙南地域の大河原VS白石、姶良地域の加治木VS隼人のように、役所をめぐる誘致合戦は各地で起きていて、福島県庁をめぐる福島VS郡山、群馬県庁をめぐる前橋VS高崎、長野県庁をめぐる長野VS松本などの対立は根が深く、今も語りぐさになっています。
6・現代の仙南地域
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 大河原が役所の町として動き出してから145年がたちます。その間に明治・昭和の大合併があり、市町村の枠組みが大きく変わり、仙南の地域範囲も変化しています。昔は名取郡に属していた長町秋保周辺も仙南として扱われていましたが、それらが仙台市に編入された現在、長町や秋保を仙南と呼ぶ慣習はなくなりました。

 仙南とは、沿岸部の名取市・岩沼市・亘理町・山元町を含めて広く県南全域を指す地域名ですが、狭義には内陸部2市7町(白石市・角田市・蔵王町・七ヶ宿町・大河原町・村田町・柴田町・川崎町・丸森町)を指して仙南地域といいます。県は仙南地域を「白石市、角田市および大河原町・柴田町を中心とする地域」として、中心を1つに絞りません。もし1つに絞るなら、仙南全域から買い物客を集める商都であり、仙南地域を管轄する行政機関が集中した大河原町を中心都市と見るのが妥当でしょう。ところが、大河原町は中心都市の自覚が低く、自町を名もない小さな存在と思い込み、白石市の陰に隠れてしまう癖があります。それは、次ぎのような町民の会話に表れています。

 福島市のとある温泉旅館に宿泊したときのこと。山形から来たというオジさんが「あなたがたは、どこから来たのですか」と話しかけてきました。すると、大河原のオジさんは「白石の近くのモニョモニョ・・・」と、あやふやな返事。大河原のオジさんは、大河原の知名度の低さを自覚していて、「大河原です」と答えても通用しないと思っているのだ。だから「白石の近くのモニョモニョ・・・」になるのだが、山形のオジさんはモニョモニョが聞き取れず、納得のいかない様子。すると、大河原のオジさん、一瞬、困った顔で考え込んだかと思うと、意を決し、晴れやかな顔で「白石です」と言いきったのです。Oh my God! 何たることを! 圏域の中心都市が自らの名を名乗れず、隣町の名を借りて白石と名乗ってしまう。これでは中心都市失格です。白石は中心性に衰えを感じさせながらも知名度は衰えず、その高いネームバリューで大河原をノックアウトするのである。
7・仙南地域の人口分布図
 仙南地域には2つの市(白石市・角田市)があるのに、なぜ大河原町が中心都市なのか? この疑問に答えるには、文章より地図の方が効果的です。そこで人口分布図を作りました。作図にあたっては、国土地理院地図・2015年1月1日宮城県推計人口・各市町発表の行政区別人口・各市町発表の字別人口など各種資料を参考にしています。
地図
 大河原に警察署や裁判所が設置されてから140年以上を経ています。明治初期の大河原は仙南の中央に位置するものの、白石・角田よりも小さな町場でした。それが今では逆転し、白石市・角田市よりも大河原町・柴田町の市街地が大規模になっています。役所の設置で大切なのはアクセス負担の公平性です。一方に偏らず、どこへでも到達しやすく、どこからでも入り込みやすく、しかも多くの住民に対応できる場所が条件になります。人口分布図を見ていると、その条件を満たすのは大河原町であることが読み取れます。
 国や県の出先機関は世の中の情勢にあわせて、新設されたり廃止されたりします。以前は白石市や角田市にも法務局の出張所が置かれていましたが、2001年に大河原支局に統合されて廃止となりました。現在、仙南地域を管轄する国や県の出先機関は、大河原町に一極集中といったところです。では、大河原町に所在する国や県の出先機関および広域的な公共施設を個々に紹介していきます。
8・仙台地方検察庁大河原支部、大河原区検察庁 
撮影:2017年2月
住所:字南海道下47
庁舎完成:1982年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 写真の庁舎には2種類の検察庁が入居していました。仙台地方検察庁大河原支部と大河原区検察庁の2種類です。このうち、地方検察庁は地方裁判所と家庭裁判所に対応し、区検察庁は簡易裁判所に対応する検察庁です。当ページでは地方検察庁について述べることにします。
 仙台地方検察庁は仙台市に本庁を置き、石巻市・気仙沼市・登米市・大崎市・大河原町に支部を置いていましたが、2004年から大河原支部の事務を仙台の本庁で行うようになり、大河原庁舎は無人になりました。同じように登米支部の事務は古川支部で行われています。
 2017年1月1日現在、日本には1,718の市町村があります。そのうちの245市と7町に地方検察庁が置かれていましたが、残り1,466の市町村には地方検察庁がありません。千葉県船橋市や東京都八王子市などは規模の大きな都市ですが、それでも地方検察庁はありません。この状況のなか、地方検察庁が置かれた7町(北海道新ひだか・北海道岩内・北海道江差・宮城県大河原・千葉県一宮・岐阜県御嵩・島根県隠岐の島)は異色な存在です。
 ただし、仙台地方検察庁大河原支部の名称は今も残っていますが、事務は仙台本庁内で行われ、大河原町内には実態がありません。無人となっていた庁舎には現在、大河原町シルバー人材センターが入居しています。
9・仙台法務局 大河原支局 
撮影:2017年2月
住所:字錦町1-1
庁舎完成:2001年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 仙台法務局は仙台市に本局を置き、石巻市・塩竈市・気仙沼市・登米市・大崎市・大河原町に支局を置いています。なお、名取市には出張所を置いています。
 大河原支局は2001年に現在地へ新築移転しましたが、この年に大規模な統廃合が行われています。4月川崎出張所廃止、6月白石出張所廃止、7月角田出張所廃止。こうして、仙南地域の法務局はすべて大河原支局に統合されました。役所の統廃合は、地域の利便性や盛衰にかかわる重要なできごとです。近年では、2009年に大和出張所が仙台本局へ、築館支局が古川支局へ統合されて廃止になりました。
 2017年1月1日現在、東北6県には227の市町村があります。そのうちの38市と3町に法務局が置かれていますが、残り186市町村には法務局がありません。岩手県一関市や秋田県横手市などは拠点性の高い都市ですが、それでも法務局はありません。この状況のなか、法務局が置かれた3町(宮城県大河原・福島県南会津・福島県富岡)は異色の存在です。
ただし、
10・大河原公証役場 
撮影:2017年2月
住所:字新南35-3

 公証役場はなじみの薄い役所ですが、法務局管内に置かれた官公庁です。官公庁でありながら独立採算制をとっているため、収益のあがらない地域には公証役場がありません。公証役場の分布は都市部に偏っていて、人口の少ない地域には立地しません。たとえば、人口の多い東京23区内では39か所に置かれていますが、北海道の宗谷・留萌地域は広範囲にわたって公証役場の空白地帯となっています。このような状況は宮城県でも同じで、県北の栗原・登米・気仙沼地域には公証役場がありません。
 県内の公証役場は仙台市・石巻市・大崎市・大河原町にありますが、人口の多い仙台では市内3か所に置いてあります。大河原公証役場は大河原郵便局の隣にありますが、小さい建物なので見落としがちです。
 2017年1月1日現在、日本の市町村数は791市744町183村です。そのうちの224市と1町に公証役場が置かれていますが、残り567市743町183村には公証役場がありません。人口49万の兵庫県西宮市や40万の大阪府豊中市にもありません。この状況のなか、全国の町でただ1つ、公証役場が置かれた大河原町は、町を超越して市の階級に食い込むスーパータウンと言えるでしょう。
11・仙台国税局 大河原税務署 
撮影:2017年2月
住所:大谷字末広12-1
庁舎完成:1972年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 県内の税務署は仙台市・石巻市・塩竈市・気仙沼市・登米市・栗原市・大崎市・大河原町に置かれています。なお、仙台市には北・中・南の3税務署があります。  大河原税務署の歴史は、1896年に仙台税務管理局の税務署として設置されたのが始まりです。当時、県内の税務署は11か所(仙台・長町・吉岡・古川・涌谷・築館・佐沼・本吉・石巻・大河原・角田)にありました。1949年には国税庁が設置され、大河原の税務署は仙台国税局大河原税務署となって、字町から現在地の大谷字末広に移転しています。
 2017年1月1日現在、東北6県には227の市町村があります。そのうちの47市と2町に税務署が置かれていますが、残り178市町村には税務署がありません。岩手県北上市などは拠点性の高い都市ですが、それでも税務署はありません。この状況のなか、市に至らない町なのに税務署が置かれた宮城県大河原町と福島県南会津町は異色の存在です。町に立地していると小規模なイメージがありますが、大河原税務署の規模は大きくて、一関市・大館市・酒田市・鶴岡市・米沢市など、東北地方の中堅都市に立地する税務署より管轄人口が多いのです。
12・宮城労働局 大河原公共職業安定所(ハローワーク) 
撮影:2017年2月
住所:大谷字町向126-4 オーガ1階
庁舎移転:2012年 現在地に移転
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 公共職業安定所は略称を「職安」と言い、愛称を「ハローワーク」と言います。宮城労働局は仙台市・石巻市・塩竃市・気仙沼市・白石市・登米市・栗原市・大崎市・大河原町・大和町に職安を置いていますが、白石職安は大河原職安の出張所、大和職安は仙台職安の出張所です。
 大河原職安は1972年、字高砂町に庁舎を新築して角田市・柴田郡・伊具郡を管轄していましたが、2008年からは白石職安を包括するようになり、2012年に駅前ビル「オーガ」の1階に移転しています。市制施行に至らない町に所在する職安としては規模の大きな職安です。
 2017年1月1日現在、東北6県には227の市町村があります。そのうちの56市と6町に職安(出張所を含む)が置かれていますが、残り165市町村には職安がありません。人口8万の宮城県名取市などは大河原町より大きな自治体ですが、それでも職安はありません。この状況のなか、職安が所在する6町(青森県野辺地・岩手県岩手・宮城県大河原・宮城県大和・福島県南会津・福島県富岡)は異色な存在です。
13・宮城労働局 大河原労働基準監督署 
撮影:2017年2月
住所:字新東24-25
庁舎完成:1985年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 宮城労働局は仙台市・石巻市・栗原市・大崎市・大河原町に労働基準監督署を置いています。略称は労基署です。
 同じ厚生労働省の機関なのに、公共職業安定所は「所」と書き、労基署は「署」と書きます。警察署・税務署・消防署など「署」のつく機関は、取り締まりをする権限を持っていますが、市役所や公共職業安定所など「所」のつく機関はその権限がありません。労基署の役割は、民間企業に労働基準法を守らせることですから、違反者を取り締まり地方検察庁に告発できる権限を持っています。
 2017年1月1日現在、日本には1,718の市町村があります。そのうちの286市と9町に労基署が置かれていますが、残り1,423の市町村には労基署がありません。千葉県松戸市などは人口49万の大きな都市ですが、それでも労基署はありません。この状況のなか、労基署が立地する9町(北海道浦河・北海道倶知安・宮城県大河原・福島県富岡・群馬県中之条・石川県穴水・山梨県富士川・奈良県大淀・岡山県和気)は異色な存在です。
14・東北農政局 地域第三課 
 東北農政局地域第三課は2011年8月31日に廃止され、現在は建物も撤去されて更地になっていますが、大河原町に所在していた歴史を伝えるために記録しておきます。
撮影:2005年2月
住所:字住吉町5-15
庁舎完成:1973年
管轄区域:仙南4市9町(白石・名取・角田・岩沼・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森・亘理・山元)
管内人口:342,416人(H29.5.1)

 東北農政局は県内4か所(仙台市・登米市・大崎市・大河原町)に地域課を置いていました。役所の出先は一般に支局・支所・出張所などの名称で呼ばれますが、東北農政局は仙台市に地域第一課、大崎市(旧古川市)に地域第二課、大河原町に地域第三課、登米市(旧迫町)に地域第四課を置き、これを宮城野庁舎・古川庁舎・大河原庁舎・迫庁舎と呼んでいました。全国の町で地域課が置かれていたのは大河原町と大分県玖珠町の2町だけです。庁舎は宮城食糧事務所と呼ばれていた1973年に、大河原・白石・角田の3支所を統合して新築したものです。
15・東北農政局 大河原統計・情報センター 
 東北農政局大河原統計・情報センターは2011年8月31日に廃止され、現在は建物も撤去されて更地になっていますが、大河原町に所在していた歴史を伝えるために記録しておきます。
撮影:2005年2月
住所:大谷字山下39-1
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 東北農政局は県内5か所(仙台市・石巻市・栗原市・大崎市・大河原町)に統計・情報センターを置いていました。東北地方の町で統計・情報センターが置かれていたのは大河原町だけです。1947年に宮城作物報告事務所大河原出張所として発足し、移転と改称を経て、現在は廃止されて消滅しています。その間、1959年に白石出張所を統合し、1975年には角田出張所を統合しています。このように、国の出先機関が市(白石市・角田市)から町(大河原町)に統合されていくのは珍しい現象だと思います。地域第三課も大河原統計・情報センターも、農政局関係の庁舎はなぜか目立たない場所に立地していました。
16・自衛隊宮城地方協力本部 大河原地域事務所 
撮影:2017年2月
住所:大谷字町向126-4 オーガ1階
管轄区域:仙南2市9町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森・亘理・山元)
管内人口:219,774人(H29.5.1)

 自衛隊は仙台市に宮城地方協力本部を置き、名取市・登米市・栗原市・東松島市・大崎市・大河原町に地域事務所を置いています。大河原町に所在する国の機関は仙南2市7町を管轄するのが一般的ですが、大河原地域事務所はこれに亘理町と山元町を加えた2市9町を管轄しています。自衛官募集事務所のホームページは、大河原地域事務所管内を白石市の名を借りて白石地区と表記しています。大河原地区と呼ばずに白石地区と呼ぶ根拠はわかりませんが、仙南地域には中心都市(大河原)のほかに、代表都市(白石)という性質の都市があることを暗示しています。
 2017年1月1日現在、東北6県の市町村数は77市116町34村です。そのうちの35市と1町に地方協力本部の出先機関が置かれてますが、残り42市115町34村には当該機関がありません。山形県鶴岡市や岩手県奥州市などは大河原町より大きな都市ですが、それでも地方協力本部の機関はありません。この状況のなか、東北地方の町でただ1町、地域事務所が置かれた大河原町は、やはりスーパータウンと言えるでしょう。
 自衛隊宮城地方協力本部大河原地域事務所は現在、オーガから大河原町字錦町1-1(仙台法務局大河原支局庁舎2階)へ移転しています。掲載している写真はオーガに入居していた当時のものです。
17・地方裁判所支部、家庭裁判所支部、簡易裁判所 
撮影:2017年2月
住所:字中川原9
庁舎完成:1975年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 写真の庁舎には3種類の裁判所が入居しています。仙台地方裁判所大河原支部・仙台家庭裁判所大河原支部・大河原簡易裁判所の3種類です。仙台地方裁判所と仙台家庭裁判所はともに仙台市に本庁を置き、それぞれが石巻市・気仙沼市・登米市・大崎市・大河原町に支部を置いています。
 大河原の裁判所は歴史が古く、明治時代の1877年に設置され、1878年に開庁し、1879年には現在地に庁舎が建ちました。当時、県内の裁判所は仙台・古川・石巻・大河原の4カ所で、大河原区裁判所は仙南4郡(柴田・刈田・伊具・亘理)を管轄していました。役所の設置は往々にして有力な町同士の誘致合戦を引き起こします。白石町は1911年、大河原区裁判所を白石町へ移転して白石区裁判所に改称するよう国会へ働きかけましたが実現しませんでした。
 2017年1月1日現在、全国に791市744町183村あるなか、地方裁判所・家庭裁判所が置かれているのは245市と7町だけです。残り1,466の市町村には地方裁判所・家庭裁判所がありません。この状況のなか、地方裁判所・家庭裁判所が立地する7町(北海道浦河・北海道岩内・北海道江差・宮城県大河原・千葉県一宮・岐阜県御嵩・島根県隠岐の島)は異色な存在です。
18・日本年金機構 大河原年金事務所 
撮影:2017年2月
住所:字新南18-3
庁舎完成:1999年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 県内では3市1町(仙台市・石巻市・大崎市・大河原町)に年金事務所が置かれています。ただし、仙台市には北・南・東、3つの年金事務所があります。
 写真の庁舎は大河原社会保険事務所として、1999年に新築オープンしました。社会保険事務所は年金事務所の前身です。大河原に社会保険事務所ができたことで、仙台まで行かなくても大河原で年金・保険の相談・申請ができるようになり、仙南地域も便利になりました。2010年に社会保険庁が廃止され、日本年金機構がスタート。大河原社会保険事務所は大河原年金事務所に改められました。
 2017年1月1日現在、全国に791市744町183村あるなか、年金事務所が置かれているのは221市と3町だけです。570市741町183村には年金事務所がありません。人口56万の埼玉県川口市や43万の東京都町田市にもありません。自立した都市圏を形成する山形県酒田市や長野県上田市にもありません。この状況のなか、年金事務所が立地する3町(宮城県大河原・徳島県つるぎ・宮崎県高鍋)は、かなり異色な存在といえます。
19・宮城県 大河原合同庁舎 
撮影:2017年2月
住所:字南129-1
庁舎完成:1970年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 写真の庁舎は1970年の建築で老朽化が目立っていましたが、2008年に改修工事が完了して、外観が美しくなりました。大河原合同庁舎には地方振興事務所・県税事務所・家畜保健衛生所・土木事務所・教育事務・保健福祉事務所・町村会事務局などが入居し、白石市・角田市・柴田町など管内市町からの来庁者が絶えません。来庁する車や人の動きを眺めていると、ここが仙南地域の中枢なのだど感じます。役所の町大河原を象徴する建物です。
 宮城県は県域を7地域に区分し、それぞれに合同庁舎を置いています。7地域を2017年5月1日の推計人口順に並べると、仙台地域 1,531,442人・大崎地域 202,970人・石巻地域 190,799人・仙南地域 174,337 人・登米地域 80,411人・気仙沼.本吉地域 75,300人・栗原地域 67,972人になります。仙南地域の特徴は、管内人口に見合った中心都市が育たないまま、通勤・通学・通院・買い物などにおいて、ずるずると仙台地域に吸引されていることです。
 気仙沼・本吉地域は南北に細長い地理条件により、気仙沼市のほかに南三陸町にも合同庁舎を設置していました。ただし、南三陸合同庁舎は、2011年3月11日発生の東北地方太平洋沖地震にともなう津波により被災したため、2012年に解体されました。
20・宮城県警察 大河原警察署 
撮影:2017年2月
住所:字小島21-8
庁舎完成:1995年
管轄区域:柴田郡4町(大河原・村田・柴田・川崎)
管内人口:83,054人(H29.5.1)

 宮城県警察は県内10市6町(仙台市・石巻市・塩竃市・気仙沼市・白石市・角田市・岩沼市・登米市・栗原市・大崎市・大河原町・亘理町・大和町・加美町・美里町・南三陸町)に警察署を置いています。ただし、仙台市には中央・南・北・東・泉の5署、石巻市には石巻・河北の2署、登米市には佐沼・登米の2署、栗原市には若柳・築館の2署、大崎市には古川・鳴子の2署が置かれています。なお、宮城県警察本部の警察署整備計画では、古川署と鳴子署を統合して大崎署とする案が報じられています。
 大河原警察署のホームページには、大河原署は仙台・古川・石巻の3署とともに歴史が古く、1877年の創設当時は仙南5郡(名取・亘理・柴田・刈田・伊具)を管轄していたと書いてあります。明治初期には、仙南を管轄する警察署の設置をめぐり、大河原と白石が誘致合戦をしています。当時の様子を1976年発行「広報しろいし」の記事から抜粋します。
 「宮城県時代の明治五年、捕亡・見廻役(後に番人と改称)が置かれたが六年捕亡は廃され始めて今の警察制度の基となる巡遷屯所が設置された。この時仙台の中央屯所の外に県内に三屯所(石巻・白石・古川)が設けられた。(中略)明治八年になり羅卒が巡査と改称される時に、県庁内に警察係が置かれて、県内に仙台・石巻・古川の外一出張所を設ける際、故あって白石から大河原に出張所が変更された。」
 「広報しろいし」は、「大河原はこの時以来『役所町』となる」と報じています。
21・宮城県警察 仙南運転免許センター 
撮影:2017年2月
住所:字南平3-1
庁舎完成:1999年

 宮城県警察は県内4か所(仙台市・大崎市・東松島市・大河原町)に運転免許センターを設置し、それぞれを宮城県運転免許センター・古川運転免許センター・石巻運転免許センター・仙南運転免許センターと呼んでいます。
 仙南運転免許センターは1999年、仙南4警察署(大河原・白石・角田・亘理)の管内を対象として、南平土地区画整理地内に開設されましたが、現在ではほかの地域の住民も利用可能となっています。仙南運転免許センターの開設により、仙南地域の利便性がアップするとともに、いままで大河原町に来る機会が少なかった人たちも来町するようになり、大河原町はまた1歩、仙南の中心都市に向かって前進したようです。
22・仙南地域広域行政事務組合 消防本部、大河原消防署 
撮影:2017年2月
住所:字東青川1-1
庁舎完成:1980年
管轄区域:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
管内人口:174,337人(H29.5.1)

 仙南地域広域行政事務組合は、仙南地域を一体とした行政推進の必要性から1970年に設立され、当初は大河原町商工会事務所内に事務局を置いていました。現在の庁舎は1980年に完成し、事務局・消防本部・大河原消防署が入居しています。仙南広域消防は、本部を大河原町に置き、白石市・角田市・大河原町・柴田町に消防署を設置し、蔵王町・七ヶ宿町・丸森町・村田町・川崎町に出張所を配置しています。
 組合設立当時は、廃棄物処理・火葬業務・視聴覚教材センター業務・消防業務といった業務を行っていましたが、現在は共同処理する事務も多岐になり、前述の業務に加え、介護認定事務や滞納整理事務など、さまざまな活動を行っています。なお、庁舎内にあった視聴覚教材センターは、2016年1月に仙南芸術文化センター内へ移転しています。
 仙南広域圏の中心都市は大河原町ですが、町域の面積は狭く、白石市の11分の1しかありません。人口は柴田町・白石市・角田市よりも少なく、圏域の13.6パーセントを占めるだけです。仙南広域圏は、圏域に占める中心都市の人口比率が低すぎることが特徴です。
23・仙南芸術文化センター(えずこホール) 
撮影:2017年2月
住所:字小島1-1
館舎完成:1996年
運営体:仙南地域広域行政事務組合
構成市町:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
圏域人口:174,337人(H29.5.1)

 仙南芸術文化センターは、地域の住民が身近に文化活動をできる施設として宮城県が建設し、仙南地域広域行政事務組合が管理運営をしています。愛称を「えずこホール」といい、802席の大ホールと300席の平土間ホールを備え、住民参加型の文化創造施設をめざして事業を展開しています。イベント時には仙南地域以外の人たちも来館しますから、圏外へ向かって仙南をアピールできる格好の施設となっています。なお、愛称「えずこホール」の「えずこ」とは、乳児を育てるために使ったワラ製の籠のことです。
 仙南地域では仙南芸術文化センターのほかに、座席数618席の角田市市民センター(かくだ田園ホール)、610席の白石市文化体育活動センター(ホワイトキューブ)、455席の蔵王町ふるさと文化会館(ございんホール)などのコンサートホールがあります。
 なお、仙南芸術文化センターには視聴覚教材センターも入居していて、視聴覚教材の活用を促進することにより、圏民の生涯学習の手助けとなることをめざしています。
24・みやぎ県南中核病院 
撮影:2017年2月
住所:字西38-1
院舎完成:2002年
開設者:みやぎ県南中核病院企業団
対象診療圏:仙南4市9町(白石・名取・角田・岩沼・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森・亘理・山元)
対象診療圏人口:342,416人(H29.5.1)

 みやぎ県南中核病院は、角田市・大河原町・村田町・柴田町で組織する「みやぎ県南中核病院企業団」が運営する総合病院です。病院の建設にあたっては、白石市・蔵王町・七ヶ宿町が運営する公立刈田綜合病院との間に激しい 論争が起こりました。みやぎ県南中核病院の新設と刈田綜合病院の移転新築が同時に持ち上がったからです。すでに白石市に刈田綜合病院があるのに、大河原町にも総合病院を建設する必要があるのか、1つの医療圏に2つの総合病院が必要かをめぐる論争です。この背景には地域の人口分布が絡んでいます。仙南医療圏の人口重心は大河原付近にありますから、大河原町としては譲れないのが実状です。
 県内は7つの二次医療圏(仙台・仙南・大崎・栗原・石巻・登米・気仙沼)に分かれていましたが、2013年に再編され、栗原は大崎へ、登米と気仙沼は石巻へ統合されました。仙南は仙台へ統合されずに生き残りましたが、危機が消えたわけではありません。仙南医療圏の問題点は、入院患者の多くが仙台医療圏へ流出していることです。流出率が高くなると仙台医療圏へ統合され、仙南地域で受けられる高次医療サービスが低下する恐れがあります。
25・仙南夜間初期急患センター 
撮影:2017年2月
住所:字西38-1
院舎完成:2015年
運営主体:大河原町
対象診療圏:仙南2市7町(白石・角田・蔵王・七ヶ宿・大河原・村田・柴田・川崎・丸森)
対象診療圏人口:174,337人(H29.5.1)

 仙南夜間初期急患センターは、仙南地域における平日夜間の初期救急診療を行う目的で、大河原町が開設者となり、みやぎ県南中核病院の敷地内に設置されました。
 仙南地域には3つの医師会(柴田郡医師会・白石市医師会・角田市医師会)がありますが、これまで平日夜間の救急外来診療所がなく、みやぎ県南中核病院・刈田綜合病院および開業医に負担を強いてきました。そのような背景から「仙南地域における平日夜間初期救急外来開設に係る検討会議」が設置され、検討を重ねてた結果、設置場所は大河原町とし、運営主体を大河原町とすることで基本方針がまとまり、2市6町で大河原町に事務の委任をすることになりました。この急患センターが開設されたことにより、平日夜間の急な発熱などの救急患者の診療 が可能となりました。県内の類似施設として、大崎市夜間急患センターや石巻市夜間急患センターがあります。
26・大河原町総合体育館(はねっこアリーナ) 
撮影:2017年2月
住所:字小島1-7
館舎完成:1994年
運営体:大河原町
構成市町:大河原町
大河原町人口:23,672人(H29.5.1)

 大河原町総合体育館は愛称を「はねっこアリーナ」といい、1994年、小島土地区画整理地内に新築オープンしました。大河原町単独の施設ですが、各種スポーツ大会などが開催され、他市町村からの来場者も多いので、広域型の公共施設として掲載します。体育館は1,530平方メートルのアリーナをメインに、428平方メートルの広さを有する柔剣道場、171平方メートルのトレーニング室があり、駐車場は仙南芸術文化センターと共用で335台駐車可能です。
 大河原町総合体育館の周辺には、仙南地域の中枢を担う大型施設が集まっています。ショッピングセンター「フォルテ」・仙南芸術文化センター・みやぎ県南中核病院などが立地する様子は、さしずめ「仙南の中核ゾーン」といったところです。
27・大河原駅前再開発ビル (オーガ) 
撮影:2017年2月
住所:大谷字町向126-4
建物オープン:2000年

 大河原駅前再開発ビル「オーガ」には、公共職業安定所(ハローワーク)が入居しているので、広域型の公共施設として掲載します。
 オーガは大河原町の顔となる建物で、2000年に完成しました。当時は大河原町の景観がダイナミックに変貌し、仙南の中心都市を目指して膨らんでゆく活気が感じられたものです。1994年から2002年までの8年間に、総合体育館・大型店フォルテ・警察署新庁舎・仙南芸術文化センター(えずこホール)・社会保険事務所・運転免許センター・駅前交番・オーガ・法務局新庁舎・県南中核病院などが次々に完成しています。
 現在、オーガには職業安定所や図書館・イベントホール・信用金庫・保険会社などが入居していますが、キーテナントとなるスーパーが撤退し、オープン当初の華やかさは消えています。閑散とした館内や止まったままのエスカレーターに哀愁が漂います。経営が破綻した第三セクター再開発ビルの青森市「アウガ」や上山市「カミン」のようにならないことを願います。
28・日本郵便 大河原郵便局 
撮影:2017年2月
住所:字新南35-1
局舎完成:1988年
集配区域:2町(大河原町・村田町)
集配区域人口:34,955人(H29.5.1)

 写真の局舎は1988年の完成で、中部土地区画整理事業で造成された新市街地の中にあります。大河原郵便局は大河原町と村田町の集配業務を担当しているので、広域型の公共施設として掲載します。
 大河原における郵便局の歴史は、1872年に大河原郵便取扱所として大河原村字町117番地に開設されたのが始まりです。1875年に名称が改められて大河原郵便局となりましたが、このとき国は、郵便局を一等から五等までに区分しています。県内では一等(仙台)、二等(古川・石巻・登米)、三等(大河原・白石・角田・吉岡・気仙沼・本吉・築館・佐沼・涌谷・広淵)でした。ここに掲げた「本吉」は志津川を指します。当時、志津川は近隣の村と合併し、本吉村を名乗っていました。現在は等級がなくなりましたが、明治期における県内の拠点となる町場を知る手がかりになります。
29・JR東日本 大河原駅 
撮影:2017年2月
住所:大谷字町向119-1
駅舎完成:1986年

 大河原駅は周辺市町の住民も利用するので、広域型の公共施設として掲載します。大河原駅の歴史は古く、県内で最も早く開業した駅の1つです。1887年、郡山から塩竈まで鉄道が延伸開通しました。このとき、10駅(本宮・二本松・松川・福島・桑折・白石・大河原・岩沼・仙台・塩竈)が開業しています。当時は、現在のような市町村制は確立しておらず、仙台藩の村を引き継いだ大河原村大谷村小山田村福田村などが自治体として自立していました。白石川の左岸が大河原村で、右岸は大谷村です。大河原駅は尾形安平らの尽力により、この大谷村に設置されました。
 大河原駅が北白川駅や船岡駅と異なるのは、かつては駅前にバスターミナルがあり、多方面へ路線バスが発着していたことです。しかし、路線バスの衰退に歩調を合わせ、大河原駅の乗客数も減少しています。JR東日本各駅1日平均乗車人員によると、2000年度は大河原駅4,052人・白石駅3,590人・船岡駅3,234人の順でしたが、2015年度には船岡駅3,354人・大河原駅3,345人・白石駅2,908人となり、長年にわたって保持してきた仙南地域での乗客数トップの座を船岡駅に譲っています。
 なお、2019年度は大河原駅3,391人・船岡駅3,319人・白石駅2,860人でトップに返り咲いていますが、大河原駅と船岡駅が僅差でデッドヒートを展開中です。

おわりに
 役所が置かれた町は経済的に発展する傾向があります。そのため、どの町も役所をほしがります。昭和中期、1950年7月の第008回国会法務委員会第8号に「白石町に簡易裁判所設置の請願」が記録されていますので掲載します。
 衆議院議員庄司一郎(宮城県会議員、大河原町長を歴任)は、白石町の要請を受けて次ぎのように請願しています。「ただいま議題と相なりました請願の趣旨をきわめて簡単に申し上げます。宮城県刈田郡白石町、この町は封建時代は仙台伊達公の参謀総長であつた片倉小十郎の城下でありまして、ただいま人口は約三万に近い、もはや市制を準備中の白石町でございます。この刈田郡白石町外十箇町村の町村長が、連署連名をもつて今回の請願を提出して参つたのであります。宮城県の仙台以南の都市には、大河原町というところに仙台地方裁判所大河原支部並びに大河原簡易裁判所があるのみでございます。その他仙台市から南方面には大河原町以外に簡易裁判所の開設はないのであります。従いまして伊具郡、柴田郡、刈田郡、かような約五十箇町村近い町村は、全部が裁判関係あるいは検察関係等においては大河原に集まるということになつております。そこで刈田郡白石町長麻生寛道という人が主催で刈田郡の町村長会の会議の結果、ぜひ刈田郡の白石町に刈田郡十一箇町村を包括していただきますところの白石簡易裁判所の御開設を願いたい、こういう趣旨の請願でございます。前国会においては伊具郡角田町より同種類の請願が提出されておりまして、すでに御採択をいただいておるのでございますが、今回の請願の分は刈田郡白石町に簡易裁判所の御開設を願いまして地方の簡易なる裁判あるいは調停その他の取扱いを、ぜひ刈田郡民の福利増進のためにお願い申し上げたい、かような趣旨のもとに、すでに請願者総代は仙台地方裁判所あるいは最高裁判所方面にも陳情書を出されておるような次第でございます。よろしく御審議の上御採択を願いたいと思います」 以上、原文のまま。しかし、白石町と角田町への簡易裁判所設置は実現しませんでした。
 このような状況のなか、大河原町には裁判所・税務署・法務局などの役所が多数立地するほか、仙南芸術文化センター・みやぎ県南中核病院などの広域公共施設も置かれています。市制施行に至らない町としては全国屈指の役所町、それが大河原町です。大河原町にとって「役所町」や「役所の町」と称されることは、ステータスでありブランドでもあります。それは、恵まれた地理的条件と先人たちの努力が残してくれた贈りものです。しかし、こんな立派なブランドを持ちながら、それを活かせないのはもったいない話です。
参考文献
宮城県史 7警察(昭和35年12月31日)宮城県
大河原町史 通史編(昭和57年5月30日)大河原町
大河原町史 年表(昭和59年3月31日)大河原町
角川日本地名大辞典4宮城県(昭和54年12月8日) 角川書店
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