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朝、五時に起きて温泉街を散歩しました。道後温泉駅前のカラクリ時計を眺めていると「昨夜は時計に明かりがついて綺麗でしたよ」と背後から声をかけられてびっくり。ふりむくと左手にお酒、右手にカップラーメンを持ったホームレスのおじさんが優しい眼差しで こっちを見ています。
おじさんは一定の土地にとどまっていられない病気なのだそうです。一つどうです、と酒をすすめられましたが遠慮しました。昔、隅田川の川べりで博識なホームレス氏にビールを御馳走になったことがありますが、今度のホームレス氏もなかなかの博識で「陸奥をふたわけざまに聳えたまふ蔵王の山の・・・」と斎藤茂吉の歌を投げてくるではありませんか。それならこっちも茂吉でと、道後温泉宝厳寺の歌碑に刻まれた「あかあかと一本の道通りたり・・・」を返しました。 ホームレス氏との不思議な時間が流れます。聞けば、望まれずに生まれてきた身とか。でも、そんな優しい目をして身の上話をするのは良くないよ。つい、ほろりとするじゃないか。コンビニで牛乳を買った時の釣銭を、そっとホームレス氏の手に渡しました。 (写真:愛媛県松山市道後温泉駅前カラクリ時計 挿絵:鉛筆&カラーインク) 執筆:2013年5月 改訂:2016年5月 |