地理と地域旅行記
京都 東山から四条河原町
制作:千本桜 歌麿
設置日:2020.9.16
E-mail:tiritotiiki@gmail.com
写真
 久しぶりに京都を歩く。スタートは東山泉涌寺。この寺はかなり格式の高い寺院です。なにしろ皇室の菩提寺だそうで、単に御寺(みてら)と言えばこの寺を指すのだそうです。総門から山門まで400メートルはあろうか。御寺の風格が漂う長い参道が続きます。この寺には雲龍院など九つの塔頭(たっちゅう=山内寺院)が点在する。その中から、北の谷筋に位置する善能寺来迎院今熊野観音寺、を訪ねます。
 薄暗い木立の中を石段づたいに下りるとそこは善能寺。住職は住んでおらず、門扉は閉じられているが体を横にするとすり抜けられる隙間が空いている。これは「好奇心を抑えられない人はそっとお入りください」のサインかもしれない。そう思って境内に滑り込む。あぁ、なんと妖しく静かな空間。そこには廃れた美を放つ荒れかけた庭園があった。こんな立派な庭園が無造作に転がっているところに京都の奥深さを感じる。
 沢の向かいは大石内蔵助ゆかりの来迎院。生い茂る木々に覆われたこの寺は、訪ねる人も少ない隠れ家の雰囲気がある。それにしてもこの谷底一帯は不気味なほど静かで、夜に一人で来る気にはなれない。緑の樹林の奥に赤い橋が見え隠れする。あの赤い橋はどこへ続くのだろう。その妖しさに引き込まれ、来迎院脇の細い道を進む。
 ムムッ、蜘蛛の巣が顔に絡む。気分は夏の夜のサスペンスドラマ「京都妖怪夜話・今熊野に棲む800歳の美女」の世界。主演は樋口可南子か宮沢りえにお願いしたい。赤い橋は今熊野観音寺へ続く橋だった。今熊野観音寺は市街地からそう遠くないのに、眺める景色は深山に入り込んだように緑です。秋にはきっと艶やかな紅葉に染まるのでしょう。

 今熊野観音寺から東大路に出てバスに乗り、東山七条で下車。この辺りには観光スポットが集まっています。国宝の障壁画と名勝の庭園で有名な真言宗智山派総本山・智積院は東大路に面しているのでとにかく目立つ。その長い長い白壁の塀を見ていたら頭の中で渚ゆう子が♪「京都の恋」を唄いだす。「白い京都に雨が降る〜」。白い京都って何のことでしょう。ひょっとしてこの寺の白壁塀のことか?。
 七条通に折れると京都国立博物館。その向かいは修学旅行で訪れた人も多いはずの蓮華王院本堂三十三間堂。他にも養源院妙法院など見所いっぱい。中まで拝観すると日が暮れるので塀や門から覗き見するだけにしました。
 一日乗り放題のバス券を使って東山七条から五条坂へ。駐車場が分らずウロウロ運転しているのは岡山ナンバー。それをせきたててクラクションを鳴らすのが京都ナンバー。信号無視で横断歩道に突っ込んでくるのは大分ナンバー。私にとって非日常のナンバーが次々やってくる。それを見るだけで気分はすでにハイテンション。五条坂は人も車もいっぱいで大混雑でした。

 五条坂バス停から鳥辺野墓地を通って清水寺へ上る。たぶんこの寺は京都最大の観光スポットだろう。なにしろ京都で20年間連続トップの訪問者数を維持しているらしく、この日も大勢の人が舞台から京の町を眺めていました。子安塔音羽の滝を巡った帰りは、土産物屋が並ぶ三年坂二年坂へと下りる。素人の女性らしき二人が舞妓姿で三年坂を歩いている。危ないな、慣れない"ぽっくり"なんか履いて。ここで転んだら三年以内に死ぬんだぞ。
 二年坂を過ぎ霊山観音の前を通って高台寺へ。ここは北政所ねねが秀吉の菩提を弔うために建立した寺で、通称ねね寺と呼ばれているそうです。暑い。陽は高く昇ってジリジリ照りつける。茶店で抹茶かき氷をいただく。この辺りはたくさんの観光客が歩いているのに、拝観料を払って境内に入る人は意外と少ない。そうか、みんな町歩きを楽しんでいるのだな。
 ねねの道を歩いていると石塀小路の看板が目についた。石塀小路って何だろう。誘われてふらふら入り込む。そこは表向き上品な民家に見えて、実は料亭や旅館、スナックを営む家屋が並ぶ路だった。一見さんでもいいのかな?。でも敷居が高そう。円山公園に着いたら木陰で休もう。その方が気楽でいいや。
 円山公園で一休みして浄土宗総本山・知恩院へ向かう。まず飛び込んできたのは国宝の三門。この寺では山門を三門と書きます。日本一の大きな山門だそうで堂々としている。除夜の鐘で有名な大鐘も日本最大。とにかく大きなお寺です。銀閣寺まで行きたいけれど時間的に無理みたい。円山公園に戻って八坂神社から東大路に出た。

 八坂神社前の東大路と四条通が交わる所が祇園交差点。どこからどこまでが祇園なのか分りませんが、とにかく祇園の町を歩くことにします。祇園を東西に走るメインストリートは四条通。ふと浅草を思い出す町並みです。
 カンカン照りの真昼は暑くてたまりません。スターバックスで涼みましたがこの手の店は苦手です。第一、長ったらしいカタカナメニューなど理解できません。「ナントカカントカフラペチーノ」ってどんなものか判らないけど、そのフラペチーノとやらを一つ注文。今度はどのサイズにするか聞いてきた。どうやらサイズがあるらしいのだが、指定の仕方が分からない。すると事情を察した店員さんが、大きさの異なるコップをポン、ポン、ポンと手際よく目の前に四つ並べて見せた。うむ、この中から選べと言うのだな。それにしても見事な手さばき。まるで賭場で壺ふる姐さんみたい。
 祇園を南北に走る花見小路は歴史的景観保全修景地区で趣きのあるお茶屋が並ぶ。南の突き当たりには日本最古の禅寺・建仁寺が構えて風情が漂うのに、なぜか途中に場外馬券場があるのは場違いな感じがする。裏道や横丁をぐるぐる歩いているうちに、六波羅蜜寺やしっとりした花街の宮川町まできてしまった。鴨川の河原を歩いて四条通へ戻ろう。団栗橋の下で涼みながら、川の中で釣りをしている人や四条大橋を行き交う人を眺めていると盛岡を思い出す。清らかな川と橋のある町、京都と盛岡は似ています。

 四条大橋を渡って祇園をあとにする。目指すは高島屋と阪急が店を構える京都の中心・四条河原町。さすがに大都会の中心部だけあってとても賑やか。四条通を200メートルほど西に進むとオーバーアーケード商店街の新京極だ。みやげ物店が並ぶこの商店街は懐かしい!。修学旅行の記憶がググッとよみがえってくる。三条通付近の旅館街に宿泊し、この商店街でみやげを買うのは今でも修学旅行生の定番なのだろうか。一本西側の寺町通も似たような感じの商店街で賑やか。ついでに京都の台所・錦市場まで足を伸ばす。
 次は夜の盛り場へ行くぞ。まだ陽は高くて明るいが河原町通を横切って木屋町通へ。木屋町通は森鴎外の小説で知られる高瀬川に沿う盛り場ですが現代風な町並みです。この通りの東に並行するのが花街・先斗町。こちらは木屋町通とは打って変わって和田弘とマヒナスターズ♪「お座敷小唄」の世界。ところでこの歌は「京都先斗町に降る雪も雪に変わりはないじゃなし」と唄うけど、「変わりはないじゃなし」って変わりが有るのか無いのかどっちなんだ。あ〜〜、どうでもいいけど暑い。京都の夏は暑すぎます。そろそろ鴨川の川風に吹かれて今熊野へ帰ろうか。

(地図:Illustrator)

旅行:2007年8月
執筆:2007年8月
地理と地域旅行記>京都 東山から四条河原町