地理と地域フォトエッセイ
等高線
制作:千本桜 歌麿
公開:2022年9月14日
E-mail:tiritotiiki@gmail.com
写真
 懐かしい地図の原図がある。穂高連峰が聳えて梓川が流れている。上高地の5万分の1地形図だ。これは製図を始めて間もないころの練習作品だが、愛着があって捨てられない。当時はまだパソコンが普及しておらず、スクライブという技法で地形図を描いていた。遮光性の被膜を塗布したフィルムに、素図を焼き付け、下から光を照らし、被膜を針で彫ってゆく。針はピアノ線を加工して自分で作る。針先を用途に合わせた太さに成型し、等高線なら、主曲線を0.075ミリ、計曲線を0.15ミリの針で彫る。熟練した製図者は0.005ミリの違いを見抜くから気がぬけない。道具が指になじみ、なめらかで美しい線が引けるようになるまで練習を積むのである。現在はパソコンで地図を描くようになり、スクライブの針を持つこともなくなって久しいが、今も残る中指のペンだこに、昔を思い出しては懐かしんでいる。

作文 2022年9月14日