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春の日差しを浴びて、男がアコーディオンを弾いている。誰もいない公園で、楽しそうに弾いている。珍しいですね、アコーディオンを弾くなんて。「これはアコーディオンじゃなくてオルガネットというんです」。オルガネットですか。「そう、南イタリアやシチリア島に伝わる民族楽器です」。シチリアですか、行きたいな……。オルガネットの音色に誘われて、こころはシチリアへ飛んでいく。西洋とアラブの十字路、エキゾチック! 私はいま、パレルモのクアットロ・カンティの街角の、古い酒場にいるようだ。どうせ白日夢。何杯飲んでもただである。下戸なのに、ワインを3杯。どうやら酔いが回ってきたらしい。ありがとう、美味しかったよ。ドアを開けて店を出れば、そこは白石川の河川敷。春の日差しを浴びて、男がオルガネットを弾いている。誰もいない公園で、楽しそうに弾いている。
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