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大河原にて
毎年、春になると一目千本桜に誘われて千葉県浦安市から白桃さんがやってくる。白桃さんは地理好きで、市町村の人口にやたら詳しい。町並み観察が大好きで、大河原みたいな小都市に奮い立つ。なぜか千本桜とそっくりなのだ。
今年は大河原駅から船岡駅までお花見徐行電車に乗り、電車の窓から一目千本桜を眺めるぞ! 帰りは船岡駅から大河原駅へ桜並木の土手をぶらぶら歩いて戻るつもりだ。まず、駅前広場で白桃さんを記念撮影。大河原駅を発車した電車は「萩の月」の工場付近でゆるやかにカーブし、ぐんぐん桜並木に近づいて行く。手を伸ばせば桜の枝に届きそう。電車は一目千本桜と並走しながら、船岡駅のホームへ滑り込んでゆく。船岡駅の北口へ下りて土手の桜並木へ行ってみたが、予想外の強風に体が飛ばされそう。とても花見を楽しむ気分にはなれない。お花見散歩はあきらめ、電車で大河原駅へ引き返した。 急きょ、予定を変更。それじゃ角田にでも行ってみましょうかということで、丸森、角田、亘理を案内。ここが江戸期からのメインストリート、ここが駅前通り、ここが郊外型商業集積地と説明しながら車を走らせ、白桃さんを連れ回す。もはや観光にあらず、地理の巡検である。でも白桃&千本桜はそれでいいのだ。夕刻早めに大河原のカラオケ居酒屋「福ちゃん」へ。カラオケは二人に共通する趣味で、三橋美智也、橋幸夫、何でも来いだが、三田明の♪アイビー東京が一番盛り上がる。 翌朝、白桃さんが宿泊しているグリーンホテルへ行き、一緒に朝食。これから羽後街道沿いに発展した岩出山、中新田、吉岡の町を観察しに行くのだが、その前に「おおがわら桜まつり会場」に立ち寄って開花状況を確認。桜はまだ六分咲き。記念に、桜並木と残雪の蔵王を背にした白桃さんを撮影。青空がきれいだ〜。さあ、それでは伊達政宗が町割りした城下町・岩出山を目指して出発しますか。 |
岩出山散歩ルート
古川インターで東北自動車道を降り、国道47号を鳴子方向へ15分ほど走って岩出山に到着した。岩出山は伊達政宗が12年間居城した城下町。古くて落ちついた町だが、斜陽の影が射して衰退感が漂う。もちろん、マクドナルドやイオン、ヤマダ電機などはないが、かりんとう、酒まんぢゅう、凍み豆腐、納豆、竹細工など名物ならいろいろあって、歴史の奥深さを感じさせる大人の町である。
さて、この岩出山をどのようなルートで案内しよう。まず、古くからのメインストリートを車で走ってみることに。柳町から下町、仲町、荒町へと北進し、陸羽東線の踏切を越えて、横町、六十人町へと抜ける。これが岩出山の骨格となる街路で、仲町のあたりは建物をセットバックして電線を地中化し、南町商店街と呼ばれる美しい町並みになっている。車で中心街を走行した後は歩いて町なかを散策しよう。有備館から内川に沿って二ノ構橋、花見橋、月見橋へと進み、南町商店街を流して二ノ構橋たもとの紅葉軒で、うなぎ料理を食する。こんな感じで行ってみよう! |
有備館にて
岩出山の市街地を南から北へ、柳町、下町、荒町、横町、六十人町へと車で走り抜け、「有備館の森公園」の駐車場に到着した。岩出山の町歩きは、この駐車場からスタートすると良いだろう。
駐車場に車を置き、「有備館の森公園」の中を歩いて「有備館」へ。紛らわしい名称だが、「有備館の森公園」と「有備館」は別物である。ただし、隣り合っている。「有備館」は仙台藩の学問所で、「旧有備館および庭園」の名で国の史跡および名勝に指定されている。しかし、東日本大震災で主屋が倒壊。その後は庭園だけ公開されてきたが、平成28年に主屋の復元も完了し、一般公開が再開された。 入館料300円。平日なので観光客はまばらで静か。こういう所は混雑しているより静かな方がいい。浦安のマンションで都会暮らしをおくっている白桃さんにとって、有備館の和風でのどかな空間は安らぎになるだろう。どうぞ、この有備館を自宅と思ってくつろいでくださいと促し、写真・上「自宅でくつろぐ白桃」と写真・下「自宅の庭を見回る白桃」を撮影。有備館の庭園は岩出山城の岩肌を借景とした回遊式池泉庭園。だから、同じ回遊式池泉庭園である会津若松の御薬園と雰囲気が似ている。 |
遊歩道「学問の道」
有備館の次ぎは内川に沿って整備された遊歩道「学問の道」を散歩するのだ。この遊歩道は千本桜のお気に入りの道である。戦国時代が終焉を迎えた1591年、伊達政宗は米沢から岩出山に居城を移した。その際、開削した水路が内川だ。内川は城の防備とかんがいを目的に開削された人工河川だが、今では岩出山の町並みに潤いを与える重要な役割も果たしている。
内川は県南の白石を流れる沢端川とよく似ている。開削された目的も同じだし、川のほとりの景観も似ていて、ふと白石を歩いているような気分になる。有備館の裏手あたり(写真・上)は特に静かで杉木立がいい感じ。暑い夏の日など麦藁帽子をかぶり、水の音を聴きながら歩いてみたい遊歩道である。有備館庭園の池は、この内川から水を取り入れている。 有備館の裏手を過ぎ、森民酒造の裏手を通って二ノ構橋(写真・下)に着いた。川の右側、えんじ色の屋根が清酒「森泉」の森民酒造で、蔵の土壁から風情がにじみ出ている。川の左は、うなぎ料理の紅葉軒。なかなかの好立地。しかも道路は石畳。落ち着いた岩出山の雰囲気が出ている。二ノ構橋で内川を渡り、七十七銀行方向へ歩く。遊歩道の左側に内川が流れ、右側に戸田浦せせらぎ水路が流れている。水のある風景って、いい感じ。美しい町並みだな。戸田浦せせらぎ水路には錦鯉が泳いでいて、餌やりもできるから子供連れにも楽しめる。ますますいい感じ。 |
内川から南町商店街へ
七十七銀行の前で南町商店街を横断。南町商店街は美しい街路だが後で観察するとして、花見橋へ向かって遊歩道を進んだ。花見橋は内川に対して直角ではなく、斜めに架かる風変わりな橋だが、対岸へ渡ってみよう。まわりは静かな住宅街といった感じ。駅前道路を横断し、来迎寺の前を通って月見橋へ着いた。月見橋から内川の上流方向を撮影。川の左には来迎寺、右にはJAいわでやまが見える。石畳の道はこの先、内川親水公園、下川原橋へと続くのだが、時刻はすでに12時を過ぎている。来迎寺橋の所で遊歩道にさよならし、中心街の南町商店街へ向かった。
南町商店街は、城下町らしい雰囲気に修景された美しい町並みをしている。建築物にひさしを設けたり、切妻造りの屋根にするなど歴史的な景観に配慮し、電線を地中化し、建物をセットバックさせて歩道を確保し、有備館の格子をイメージしてデザインした街路灯を配して、安全で安心して買い物ができる商店街に生まれ変わった。この街路整備事業は、国土交通省の都市景観大賞「まちづくりデザイン大賞」を受賞している。南町商店街で千本桜のお気に入りは、酒まんぢうの花山太右衛門商店だ。味や値段はどうでもいいのです。とにかく、店名が「いわくありげでかっこいい」じゃありませんか。それに包装紙のデザインも渋くてgoodなのだ。時刻はそろそろ午後1時。腹が空いてきた。南町商店街を北へ進み、七十七銀行の所で左折。うなぎ料理の紅葉軒へ向かった。 |
うなぎ料理の紅葉軒
うなぎ料理の紅葉軒は、内川にかかる二ノ構橋のすぐそば。ローケーション抜群。客はいない様子。暖簾をくぐって店へ入ると、すぐ目の前に小上がりがある。玄関と小上がりの間が狭すぎやしないか。どこで靴を脱げばいいのかな。すると、奥からご主人が顔をだし、どうぞ裏へ回ってという。暖簾をかけてある玄関のほかに、別口の玄関があるようだ。ミステリアスだぞ! わくわくしてきた。
ご主人にいわれるまま、いったん外にでて別口の玄関へ回る。こちらには暖簾がなく、ちょっと大きめの一般家庭の玄関といった感じ。女将さんにどうぞどうぞと案内され、畳の部屋に入った。広さは10畳ほどで結構広く、廊下とは障子戸で仕切られている。部屋の奥、窓の外には内川が流れていて、まるで旅館みたいだ。 待つこと数十分。うな重が運ばれてきた。うなぎは少し小ぶり。うな重って普通は腹側が上のはずだが、紅葉軒では皮側を上にして、ごはんに乗せている。たぶん、この店のご主人には人知れぬ「こだわり」があるのだろう。千本桜は料理に無頓着だから味の評価はできないが、静かな店の落ちついた部屋で、のんびり食事ができて良かったと思う。食事の後は二ノ構橋を渡って森民酒造へ。ちょっと店内を覗いてから、有備館の森公園の駐車場へ戻った。 さあ、これから中新田へ行くぞ! その前に岩出山城址の城山公園と、いろは食堂を見てみたい。まだ蕾だが、城山公園は桜の名所だ。ちょうど50年前、千本桜はこの城山公園でお花見をしたことがある。はやいものだな、あれから50年か…。いろは食堂は行列ができる人気ラーメン店で、いまや観光スポット的存在である。まだ入店したことがないので、いつか入店してみたいものだ。そのためにも、店の場所を目に焼き付けておこう。 |
中新田巡検
今回の旅の目的は、羽後街道沿いに発展した3町(岩出山・中新田・吉岡)の町並みを観察することである。合併して、岩出山は大崎市、中新田は加美町、吉岡は大和町となったが、白桃&千本桜は古くからの町場名で押し通す。岩出山は玉造郡、中新田は加美郡、吉岡は黒川郡の中心都市で、ともに明治22年に町制施行した歴史の古い町である。
岩出山を出てから15分。なだらかな丘陵地帯を走って中新田に到着。さっそく中心街の花楽小路商店街へ進入してみる。商圏人口3万の町にしては、なかなか立派な商店街だ。この花楽小路商店街は、住所地名を西町および南町といい、昔からのメインストリートである。電柱のない石畳の街路は凛として美しく、その景観からは、古川や仙台に飲み込まれまいとする中新田の心意気が感じられる。 花楽小路商店街を北から南へ貫通したあとは、町の中に点在する観察スポットを見て回る。中新田は酒造店が3軒(田中酒造・中勇酒造・山和酒造)ある酒の町。さらに、墨雪墨絵美術館、あゆの里公園、縄文芸術館、東北陶磁文化館、あゆの里物産館、バッハホールなど、B級スポット多数あり。これら、時間の都合で外観だけウオッチング。お〜、やっぱり忙しい。最後に、市街地東南部の水田地帯に出現したイオンスーパーセンターを右に見て中新田を後にした。 鳴瀬川を渡って色麻町の中心集落・四竃に入る。四竃は中新田宿と吉岡宿の間に設置された「間の宿」で、色麻も四竃も「しかま」と読む。四竃の表通りを通ることはあっても、町の裏手に入り込む機会は滅多にない。えい! この機会だから寄り道するね。国道457号から県道へ右折。そこは、国道に面した町場の裏手にあたるが、町役場のほかに農協、体育館、工場なども立地していて予想以上に変化していた。 |
吉岡巡検
四竃から15分。羽後街道と奥州街道が合流する吉岡に到着した。台地の上に発達した宿場町(下町・中町・上町・志田町)は今でも吉岡の中心商店街に位置づけられているが、町並みは旧態依然ですきま風が吹いている感じ。岩出山の南町商店街や中新田の花楽小路商店街に比べると、華がなくて見劣りがする。しかし、吉岡には別の一面もある。既成市街地の東側と南側には新市街地が造成され、市街地の規模は年々拡大し、活気が感じられるのだ。それでは、既成市街地の東側に広がる新市街地へ行ってみよう。
志田町交差点で国道4号を突っ切り、大和インター方面へ走行。途中で県道9号線に折れて国道4号方面へ向かうと、そこは東部の新市街地。住所地名を吉岡東という。沿道には宮城トヨタ、コメリ、ヨークベニマルなどが張り付いている。警察署前の交差点で国道4号へ進入し、北へ向かって走る。国道は片側2車線、道幅広し。車両交通量は1日3万台。沿道には、やまや、しまむら、ソフトバンクに幸楽苑。ドキッ! 10階建てのホテルルートインまで建っている。いいぞ吉岡、通るたびにパワーアップしているぞ! 次ぎは、既成市街地の南側に造成された新市街地を見に行こう。国道4号を北へ走り、吉岡市街地の北端で国道457号に進入。自衛隊駐屯地前を南下して「まほろばタウン吉岡みなみ」へ向かった。まほろばタウンは景観変化の激しい新市街地。すでに幹線道路の沿線にはホームセンター、食品スーパー、家電量販店、ドラックストアなどが張り付き、大和町役場も立地している。20年前、大河原では市街地が拡大し、都市機能が増大し、地域がやけに熱気を帯びていた。それと同じ熱気をいま、この吉岡に感じるのである。 そろそろ、岩出山・中新田・吉岡めぐりもゴールに近づいた。白桃さんが吉岡あたりを再訪する機会はないかもしれない。せっかくだから富谷も見せてやりたい。国道4号を左に逸れ、宿場を起源とする富谷の町場に寄り道した。この町場は、人口5万の富谷市の中心市街地にあたるが、現実には人口5千の富谷町の中心集落といった感じである。このあと、仙台駅まで地下鉄に乗りたいという白桃さんを泉中央駅まで送り届け、白桃&千本桜のマニアックな旅は無事終了したのであった。 |
おおがわら桜まつり
白桃さんが浦安へ帰ってから二日後の4月16日、大河原の一目千本桜は満開となりました。この日は日曜日、天気は晴れ。絶好の花見日和に誘われて花見客がどっと押し寄せ、単日では過去最高の人出となったそうです。駅前通りの尾形橋から桜まつり会場を見渡せば、超満員の賑わいぶり。この光景を見たら、浅草仲見世通りも原宿竹下通りも、大河原に負けたと悔しがることでしょう。(笑)
でも、この賑わいもこの日で終わり。翌日からの雨風で、あっという間に葉桜になってしまいました。さて、来年はどこへ行きましょうか。宮城県内では涌谷、岩ヶ崎を見残していますが、山形県の村山地方を舞台に展開する小都市(上山、天童、山辺、長崎、左沢、寒河江、谷地、東根、楯岡、尾花沢、大石田)たちの熱き戦いに思いをめぐらす旅もおもしろそうです。 (地図:Illustrator) 執筆:2018年2月 |