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昭和40年代の都市分布と都市規模
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はじめに
皆さんは、何をもって「都市の大きさ」を判断しますか。私たちが目にする地理統計の多くは、市区町村を地域単位としています。都市の大きさを量る場合も、市区町村の人口などから判断するのが一般的です。しかし、これでは市区町村の大きさを知ることができても、都市の大きさを知ることはできません。市区町村の規模ではなく都市の規模を知りたい。それを発露に、人口集中地区(略称DID)を都市地域とし、都市地域に立地する金融保険業および卸売業小売業の従業者数を基にして、都市の大きさの算出を試みたのは昭和49年のことでした。今となっては古い統計になってしまいましたが、当時の都市の大きさを記録しておくために当ページを作ることにしました。
なお、DIDとは「Densely Inhabited District」の略で、「人が密集して居住している地区」つまり都市的地域を意味します。以後、当ページは人口集中地区をDIDと記します。 |
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実力人口とは、金融保険業・卸売業小売業の従業者数から算出した都市の規模を人口に換算したもので、都市の大きさを表しています。なお、「実力人口」は筆者独自の造語です。
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(1)市町村名ではなく、市街地名を都市名とする
当ページは、DIDに任意の都市名を付しています。都市名は、市街地名を適用しているため、市町村名とは合致しない場合もあります。例として、宮城県名取市DID図を掲げます。総理府統計局はこの市街地を名取市DIDとしています。しかし、ここは名取市街ではなく、閖上市街と呼ばれるのが一般的です。従って、当ページは名取市DIDの都市名を「閖上」とします。同じ例は、秋田県男鹿市の「船川」、石川県加賀市の「大聖寺」、徳島県阿南市の「富岡」、大分県宇佐市の「長洲」など、各地に分布しています。 |
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(2)連担DIDに付す都市名・その1「名称を1つに絞る」
連担DIDに付す都市名には、区域内で最も中心性の高い市街地の名称を適用します。例として、奈良県王寺町と三郷町にまたがる連担DIDをあげます。DID人口は両者ほぼ互角。しかし、DID区域内に立地する金融保険業および卸売業小売業の従業者数は、王寺町1,175人、三郷町88人で、両者には明確な差があり、王寺の市街地は中心性で優位に立ちます。従って当ページは、この連担DIDの都市名を「王寺」とします。東京特別区や横浜市などにまたがる連担DIDの都市名を「東京」とするのも、この例です。 |
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(3)連担DIDに付す都市名・その2「名称を連称する」
連担DIDに付す都市名には、区域内で最も中心性の高い市街地名を適用しますが、中には同規模の市街地が連担することもあります。このような場合は連称都市名とします。例として、広島県五日市町と廿日市町にまたがる連担DIDをあげます。DID区域内に立地する金融保険業および卸売業小売業の従業者数は、五日市町2,624人、廿日市町2,125人。両者は互いに譲れぬ関係です。従って当ページは、この連担DIDの都市名を「五日市・廿日市」と連称します。「藤沢・茅ヶ崎」「明石・垂水」なども、この例です。 |
(1)DIDを都市地域とする
DIDとは都市的地域のことで、人口5千人以上の市街地を指す統計上の地域区分です。例として、宮城県大河原町のDID図を掲げます。赤色の範囲がDIDで、家屋が密集し、人口密度の高い市街地を形成しています。当ページは、この赤色の範囲をもって1つの都市地域とします。 大河原町のDIDは1ヶ所ですが、中にはDIDのない市町村もあれば、複数のDIDを持つ市町もあります。また、別々の市町村のDIDが隣接しあい、つながりあって一体となった連担DID(連担都市地域)もあります。 |
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(2)市町村内に複数のDIDがある場合
市町村内に複数のDIDがある場合は、それぞれを別々の都市地域とします。例えば、福島県いわき市は7ヶ所にDIDがあり、総理府統計局はそれぞれにI〜VIIのローマ数字を付しています。それを地名に置き換えると、平、小名浜、湯本、内郷、四倉、植田、江名・中之作の7つになります。これらは、それぞれが独立したDIDですから、別々の都市地域として扱います。 このような例は全国的にあって、京都府舞鶴市は東舞鶴と西舞鶴の2ヶ所に、岡山県倉敷市は倉敷や児島など5ヶ所に、DIDを形成する市街地が分布しています。 |
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(3)隣接市町村のDIDが連担する場合
別々の市町村のDIDが隣接する場合は、これを統合して1つのDIDとします。例えば、宮城県塩竈市と多賀城町のDIDは互いに隣接し、市町の境界をまたいで市街地が広がり、一体化した都市地域を形成しています。このように連担するDIDは、統合して1つの都市地域とします。 連担DIDは全国的に分布し、北海道では函館市と亀田町の市街地が連担し、九州では福岡県大牟田市と熊本県荒尾市I の市街地が連担しています。中でも、東京、大阪、名古屋は、いくつもの市や町のDIDが連担し、大きな都市地域を形成しています。 |
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(4)東京連担DIDについて
東京23区を中心とする東京連担DID(東京都市地域)は、横浜市、川崎市、立川市、船橋市など、いくつもの市や町にまたがって市街地が広がる世界最大の都市地域です。そこには、市区町村単位では捉えることのできない巨大都市の姿があり、都市圏全体を俯瞰した捉え方が重要になっています。 東京の連担DID図を掲げます。ピンク色の範囲が連担DIDで、東は千葉県八千代市、西は東京都羽村町、南は神奈川県横須賀市、北は埼玉県大宮市に至るまで、途切れなく市街地が続いています。当ページは、このピンク色で着色した範囲をもって「東京」という名の都市とします。 |
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(5)大阪連担DIDについて
大阪市を中心とする大阪連担DID(大阪都市地域)は、堺市、尼崎市など、いくつもの市や町にまたがって市街地が広がる世界有数の都市地域です。アメリカの地図出版社・ランドマクナリー社は、1975年の統計で大阪都市圏の人口を、東京、ニューヨークに次ぐ世界3位に位置付けています。 大阪の連担DID図を掲げます。ピンク色の範囲が連担DIDで、東は大阪府枚方市、西は兵庫県神戸市、南は大阪府貝塚市、北は大阪府高槻市に至るまで、途切れなく市街地が続いています。当ページは、このピンク色で着色した範囲をもって「大阪」という名の都市とします。 |
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(6)名古屋連担DIDについて
名古屋市を中心とする名古屋連担DID(名古屋都市地域)も、市区町村の境界を超えて広がり、春日井市、西批杷島町、清洲町、新川町、甚目寺町、大治村に至るまで市街地が伸びています。名古屋の連担DID図を掲げます。ピンク色の範囲が連担DIDで、当ページは、このピンク色で着色した範囲をもって「名古屋」という名の都市とします。 このような連担DIDは郡部の町にも形成され、埼玉県杉戸町と宮代町にまたがる市街地や、静岡県三島市、長泉町、清水町にまたがる市街地など、各地に分布しています。以下に、連担DIDの一覧を掲げます。 |
(7)連担DID一覧
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(1)都市の実力人口とは
都市の実力人口とは、都市の規模を人口に換算したもので、筆者独自の造語です。九州の2大都市、北九州と福岡の人口を比較してみましょう。昭和45年国勢調査の市域人口は、北九州市104万人、福岡市87万人。連担DID人口は、北九州86万人、福岡77万人です。以上のことから判断すると、北九州は福岡より規模の大きな都市になります。しかし、街並みから受ける印象は、福岡の方が大きな都市に見えます。そこで産業構成に着目し、実力人口を算出してみました。すると、福岡168万人、北九州111万人になり、福岡の方が大きい都市という結果になりました。以下に、実力人口の算出方法について述べます。 |
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(2)実力人口を算出する
実力人口は都市産業の集積から割り出します。右表はDIDが占める産業別従業者数の占有率を表しています。占有率が高くなるほど都市産業の様相が濃くなるようです。特に金融保険業は従業者の92.7%がDID区域内に従事することから、都市地域でなければ成り立ちにくい産業と考えられます。そこで、当ページはDID占有率の高い金融保険業と卸売業小売業を都市の代表産業とみなし、DIDに従事する当該産業の従業者数をもって都市規模としました。例えば、東京連担DIDにおける金融保険業および卸売業小売業の従業者数は2,848,702人ですから、これが東京連担DIDの都市規模になります。 次に、都市規模に係数8を乗算して実力人口を算出します。係数を8とするのは、国民の8人に1人が金融保険業または卸売業小売業に従事しており、当該産業の従業者1人は人口8人に値するからです。例として、東京連担DIDの実力人口を算出すると、2,848,702×8=2,789,616(約2,790万人)になります。東京連担DIDを範囲とする「東京という名の都市」は、2,790万人分の働きをしている都市とみることができます。 |
地理と地域>都市地域の設定と都市規模 昭和40年代
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